制作者物語
家族のランドセル
河本商店のランドセルは、『家族のランドセル』です。
ランドセル作りのきっかけは、娘からの突然の相談でした。
「お父さん…ランドセルって作れる?」
私は、これまでランドセルを作ったことがなかったので戸惑いました。
すると隣にいた孫から
「おじいちゃんの作ったランドセルがほしい」
背中を押されたような気がしました。新しいことにチャレンジしなくなった自分に気づかされたのです。
「よし!はじめるか」
これまでのかばん職人としての経験を活かし挑戦してみよう。何かが、胸に灯りました。
まずは素材を集めなければなりません。 ランドセルは特殊な金具が必要です。 昔なじみの金具屋さんに相談しました。 しかし相談した金具屋さんから、金具づくりには金型を作る必要があると言われます。 金型は50万円と高価でとても手が出ません。
悩んでいると娘婿が、声をかけてくれました。
「お父さんどうされましたか?」
私が、経緯を話すと
「なるほど…僕も少し探してみますね。」
そんなやり取りの後、方々調べてなんと金具を手に入れてきてくれたのです。
素材の一つである革を選ぶ際、私は耐久性のある牛革を選びました。 兵庫県でなめされた『顔料染めの本牛革』です。 顔料で染められた本牛革は、丈夫で色落ちに強いです。 6年間、きちんと役目をはたしてくれるでしょう。 耐久性が高いとはいえ、革はいきものです。 表面の手入れをする際に、孫から学校の話を聞く予定です。
子供の使っていたランドセルを見ながら、型紙作りを始めます。
ボロボロのランドセルを見ていると、思い出がとめどなくあふれ、あっというまに時間がすぎました。
牛革を裁断機にかけます。
油圧式のクリッカー(プレス機)を使い、鋼鉄製の型で革を切ります。
型で打ち抜くことにより、丈夫な革もきれいに切断できます。
長年使用してきた革漉き機を使用します。
革を加工しやすく、仕上がりも美しくする工程です。
革の厚みを長年の経験で、調整していきます。
縫製に進みます。
何十年と一緒に働いてきたミシンで、革を縫い合わせていきます。
年代物ではありますが大事な相棒です。
工業用のクラッチミシンは、馬力がありどんな固い生地もぐんぐん縫い進みます。
あれやこれやと試行錯誤する中、ランドセルが完成しました。
孫は、ベージュがお気に入りのようです。
これから一緒に学校に通ってくれるのですね。
ランドセル作りに没頭する中で、改良に改良を重ねた結果、納得のランドセルが出来上がりました。
ボディはすべて耐久性の高い
『兵庫県製の顔料染め本牛革』
裏地は丈夫で上品な
『日本製の綿オックス』
背中に当たる部分は汚れに強くやわらかい
『日本製の発泡PVC加工ナイロン』
体にあたる部分は厚みがあり、衝撃をやさしく吸収してくれる『ウレタン』
ベルトは人の体に合わせた『曲線』
かぶせを閉める金具は『ワンタッチ式クロムメッキ金具』
どこに出しても恥ずかしくない、とても良いランドセルができたと思います。
ランドセルの贈り物を、孫はとても喜んでくれました。
娘とは、離れた場所で生活しています。
たまに見る家族の笑顔が、とても嬉しかったです。
今回の経験で得た新たな技術を、多くの方に喜んでいただけるよう活かしたいと感じました。
小学校新一年生に贈る、世界で一つだけの
『家族のランドセル』
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